坂本 眞一(さかもと・しんいち)
漫画家。1990年「週刊少年ジャンプ」の新人賞でデビュー。文学や史実に着想を得て、幻想と現実が交錯する世界観を緻密に描く作風で知られる。極限の自然に挑む人間を描いた『孤高の人』で第14回文化庁メディア芸術最優秀賞を受賞。『イノサンRouge』で第24回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。現在「グランドジャンプ」で『#DRCL』を連載中。
『イカロスの筆』あらすじ
19世紀のロンドン。ターナーの私設ギャラリーを訪れたある夫婦は、一枚の絵画の前で立ち尽くす。眼前に現れたのは、画家が大自然の猛威と対峙した記憶そのものだった。時代を超えて交錯する、光に魅入られた表現者たちの、果てなき挑戦の物語。
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Ⓒ坂本眞一
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第1回
ターナーとの出会い
坂本先生とJ.M.W. ターナー(以下「ターナー」)との出会いについて教えてください。
坂本眞一(以下「坂本」):時期ははっきりとは覚えていないのですが、今から15、16年ほど前のことだったと思います。実を言うと、当時はターナーという画家の名前すら知りませんでした。そんな僕が彼の代表作である《雨、蒸気、スピード――グレート・ウェスタン鉄道》(ナショナル・ギャラリー、ロンドン蔵)を見て、とにかく衝撃を受けました。嵐のなかを疾走する鉄道の「動き」そのものが絵に描かれていたからです。急いでターナーの本を買いに走りました。
そこまで衝撃を受けたのはどうしてですか。
坂本:そんな絵画作品をこれまで見たことがなかったからでしょうね。衝撃を受ける一方で、戸惑いもありました。僕たち漫画家が動きを表現するときは、アウトライン(輪郭線)とスピード線、擬音を組み合わせるのが基本です。でもその絵は、画面全体が曖昧で、鉄道の形すらよくわからない。それなのに、鉄道は確かに動いている。「どうして、こんな絵が描けるのだろう」と、僕のなかで大きな疑問が湧き上がりました。
その疑問に答えは出たのでしょうか。
坂本:はい、答えは「対象物の外」にありました。
「対象物の外」とは具体的にどういうことですか。
坂本:描こうとする対象物の「外」には、光や大気、風といった存在があります。でもそれらは目には見えない。だからふつうは対象物を輪郭線で囲んで描こうとします。ところがターナーは違った。彼は目に見えないものを描くことで、対象物に迫ろうとしたのだと僕は考えています。その境地にたった一人で到達したのが、とにかくすごい。つくづく敵わないと思うと同時に、表現者として勇気ももらえます。
坂本先生が影響を受けた西洋画家はほかにいらっしゃいますか。
坂本:バロックの画家カラヴァッジョが好きです。暗闇のなかから対象を浮かび上がらせる光の使い方がドラマティックで、自分もかなり影響を受けていると思います。そしてターナーもまた光を扱う画家です。でもターナーは、カラヴァッジョとはまったく違う方法で光を描いている。面白いですよね。光や太陽の表現って、本当に作家の個性が出るんですよ。ターナーには、展覧会場で展示直前の自分の絵に赤いブイを描き足して完成させたというエピソードもありますが、これにもしびれます。本当に個性的で魅力的な画家だと思います。
東京富士美術館 ©東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
本作品は東京会場のみの展示となります。
第2回につづきます
COMING SOON
聞き手:橋本 裕子|撮影:山本 倫子
第2回の内容
第3回の内容(準備中)